建築パース・CGパース制作のプロセスを解説 商業施設・店舗内観パース編

店舗や商業施設のCGパースは、空間設計や商品の魅力を効果的に伝えるための強力なツールである。しかし、高品質なCGパースを制作するには、適切な資料の準備や制作プロセスの理解が欠かせない。これを怠ると、完成品が計画意図とズレてしまう可能性がある。

例えば、指定した家具や什器の情報が不足している場合、再現性の低いパースになったり、修正作業が増えて納期が延びるケースもある。一方、正確な情報を提供し、制作会社との連携を円滑に進めれば、理想的なCGパースを効率よく完成させることができる。

この記事では、店舗・商業施設CGパース制作の各プロセスで押さえるべきポイントを詳しく解説する。理想的な仕上がりを目指し、制作プロセスをスムーズに進めるための参考にしてほしい。

目次

プロセスその1. 店舗・商業施設CGパース制作開始前の準備

店舗・商業施設CGパース制作の第一歩は、詳細な資料を準備することから始まる。情報が不十分だと仕上がりにズレが生じるが、十分な資料があれば空間設計や商品の魅力を的確に表現できる。詳細を見ていこう。

【内観CGパース】に必要な資料

■ 設計図面
内観CGパース制作の開始には、平面図と展開図が最低限必要となる。また、よりリアリティのあるCGパースを制作するには、造作等の詳細図が必要となる。こちらはスケッチ等で把握できれば、CADデータでなくても問題ない場合が多い。
データの形式について、JWCADを利用している際はそのままのファイルを、その他のCADを使用している場合はDXF形式に変換して送付するのが望ましい。(VectorWorksでの作図の場合は、データ変換時に表示の不具合が発生するので、PDF図面も併せて提供するのが理想的)

■ 仕上表・仕様書
壁材、床材、天井材など、使用するマテリアルの種類とその品番が記載された仕様書がCGパース制作には必要である。吹付や塗装など、色の指定があるものは日本塗料工業での色番やマンセル値での情報も必要だ。

■ マテリアル参考資料 
使用する仕上げの素材感や色を伝えるためには、カタログ画像や製品ページURLなどを用意するとよい。さらに、さらに、過去の施工事例を共有することで、デザインコンセプトや自社のスタイルを反映し、CGパースの素材表現を一層高めることができる。

照明プラン
内観パースでは、太陽光が降り注ぐ空間の場合を除き、照明器具によるライティングが非常に重要である。計画を忠実に反映するには、配灯図や器具表を出来るだけ用意するとよい。もし図面がない場合でも、照明のイメージや色温度の情報を提供すれば、精度の高い表現が可能になる。

■ 家具・イメージ資料 
家具や小物の配置については、おまかせの場合以外、具体的な情報が必須となる。家具は参考写真のみでもある程度反映可能だが、製品名や商品ページがあれば再現性が高まる。小物に関しては反映が難しい場合もあるため、イメージの共有として捉えておくとよい。

Pinterestなどを利用して、イメージする画像を検索するとよい。

□CGパース制作に必要な資料まとめ

◆ 必要図面:平面図・展開図・配灯図・天伏図・詳細図など
◆ 仕上げ表・マテリアル関連資料
◆ 配灯図 (ない場合は照明イメージや色温度を伝える)
◆ 家具・小物イメージ

CGパース制作の条件を決める

CGパースの仕上がりを意向通りにするためには、制作依頼時に希望条件を具体的に伝えることが重要である。図面や仕上げ表に加え、画像サイズやアングル、時間帯などの詳細を共有すれば、より満足度の高い成果物が得られる。特に希望がない場合は、制作会社に任せることで最適な選定をしてもらうことも可能である。

■ 制作画像サイズやファイル形式
CGパースを印刷物として利用したり、大きく出力する場合は解像度に注意が必要である。一般的に、4K前後の解像度(3840×2160ピクセル)で制作されることが多いが、用途に応じて問題がないか事前に確認しておきたい。また、画像サイズが大きいほど制作費用が変わる場合がある点にも留意しておこう。

解像度についての詳しい解説はこちらの記事を参考に。
>>建築CGパースを「印刷」して利用する際の解像度と画像サイズを解説

■ アングル方向
CG制作会社では、空間を最も魅力的に見せるアングル(視点高さ1200~1300mm、焦点距離18~36mm)を選定し、制作を進行するのが一般的である。具体的な希望がある場合は、配置図や平面図に希望の方向を図示して指示するとスムーズに反映できる。

■ シーンの時間帯
窓がある店舗区画では、昼間と夜間で雰囲気が大きく変わるため、どちらでCGパースを制作するかを決める必要がある。一方、窓がない場合は時間帯の影響を考慮する必要はないため、照明計画に基づいた表現が中心となる。弊社への依頼では、7割程度が昼間、2割が夕景での制作となっている。

■ 納期
CGパース制作では、余裕をもったスケジュールを組むことが最も重要である。修正や調整には時間がかかる場合が多く、タイトなスケジュールでは細部までこだわることが難しくなる。特に店舗オープンやプレゼンの期日が決まっている場合は、制作時間と確認期間を十分に確保することが理想的である。

□決めておきたい制作条件まとめ

◆ 制作画像サイズ
◆ アングル方向
◆ シーンの時間帯
◆ 納期を含めたスケジュール

【制作会社の対応】~3D制作開始

資料が送付されると、制作会社はその内容をもとに作業を開始する。図面やその他の資料を読み込みながら、3DCGソフトで3次元の形状を作成するモデリング作業に入る。この際、図面に表れていない部分は制作会社が補完して進めることが多いが、特殊なディテールや造作表現が必要な場合は詳細図で具体的に指示することが重要である。
提供された仕様書に基づき、モデリングした3D形状に木材やタイルなどのマテリアルを適用し、リアリティを追求する工程も進められる。これらの作業が完了すると、最終的なアングル(画角)を決定するために、複数の候補画像が送付され、選定が行われる。

プロセスその2. CGパースのアングルを決定する

CGパース制作において、アングル(画角)の選定は仕上がりの印象を大きく左右する重要なプロセスである。モデリングやライティング、マテリアル設定が完了すると、制作会社から複数の候補画像が提示される。希望のアングルがあれば指示を伝え、最適な視点を選ぶことで、空間の魅力を最大限に引き出すことができる。

内観のアングル選定の場合は、家具を配置した状態で行うことをお勧めする

アングルを決定しなければならない理由

アングルをこの時点で決定する理由は、作業範囲を明確にし、その範囲内で効率的に画像の加工や合成を行うためである。アングルを確定することで不要な作業を減らし、全体のスケジュールやコストの最適化が可能になる。

アングルが決まった後、制作会社はその視点に基づいて細部の作り込みや合成作業など、最終的な調整工程に移る。

最適なアングルの選び方

建物や空間を効果的に見せるには、正対した構図(真正面)が最も一般的に用いられる。弊社でも7~8割のケースでこのアングルを採用しており、建物の美しさを端的に表現するのに適している。

一方、複数のデザイン要素やそのつながりを強調したい場合には、斜めからの視点を選ぶことが有効である。このアプローチは空間の広がりや奥行きを演出し、設計の意図をより深く伝える手助けとなる。

建築パースの目的は、美しさを表現するだけでなく、設計意図や完成イメージを正確に伝えることにある。それぞれのアングルが持つ特性を理解し、プロジェクトの目的に適したものを選ぶことが重要だ。

アングル選定については、こちらの記事が参考になる。
>>【3DCG】建築パース制作時のアングル決定方法【カメラ設定解説】

アングル決定する際の注意点

アングルを決定する際に最も注意すべき点は、一度確定したアングルを後から変更することが難しいことである。アングルを変更すると、その後の加工や合成作業をやり直す必要が生じ、結果的にスケジュールの遅延や追加費用が発生する可能性が高くなる。

そのため、アングルは慎重に選定し、プロジェクトの目的や空間の魅力を最大限に活かせるものを事前によく検討することが重要である。

【制作会社の対応】~アングル決定後の仕上げ対応

アングルが決定すると、制作会社は仕上げ作業に取り掛かる。視界内の範囲でディテールの追加や小物の配置、照明の微調整を行い、最終的な完成に向けて作業を進める。

その後、これまでの作業内容を一枚の画像にまとめるために、「レンダリング」と呼ばれる演算処理が行われる。この工程は非常に時間を要し、大きな画像サイズの場合は数時間を要することもある。近年、パソコンの性能向上により処理時間は短縮されつつあるが、依然として制作工程で重要な役割を担う。
レンダリングが完了した画像は、編集ソフトを使用して明るさや色調を調整し、樹木や人物の合成などを経て、最初の校正用画像として仕上げられる。

プロセスその3. CGパースの仕上がりをチェックする

CGパースの完成度を高めるためには、確認作業が重要である。制作会社が仕上げた画像を受け取ったら、計画通りに反映されているか、違和感のある箇所がないかを細かくチェックしよう。必要に応じて修正依頼を行い、理想の仕上がりを目指す。ここでは、確認作業や修正指示をスムーズに進めるためのポイントを解説する。

色や明るさについて

色や明るさは、表示するモニターや出力するプリンターの環境によって見え方が大きく異なる。制作側は色調整されたモニターで作業を進めるが、確認する側のデバイスによって印象が異なる場合があるため注意が必要である。

特におすすめなのが、Apple製品(iPhoneやiPad)を基準に確認を行う方法である。これらのデバイスは多くのユーザーが使用しており、表示の違いが少ないため、指示を伝える際の基準として適している。

修正指示の際は意図まで伝える

修正依頼の際には、どうしてその対応をしてほしいのか「指示の意図」まで伝えるよう行うとよい。

「ここに植栽を増やす」という指示と緑に囲まれた雰囲気にしたいのでここに植栽を増やす」とでは制作者の理解と対応が変わってくる。

最初の指示の場合制作者は、「とにかくここに緑を入れておくのが希望なのだろうな・・・」と考え、早く終わらせるためにとりあえず従い対応を行う。一方、意図を付け加えて指示することで、もし植栽を追加しても緑に囲まれた雰囲気があまりでないと感じたらそのイメージを実現するため他の対応を提案してくれたり、相談をしながら進めてくれる場合がある。

修正期間も考慮してスケジュールを組む

画像全体を明るく・・・などの簡単な修正を除きほとんどの場合、時間を要するレンダリングを行わないと対応できないものばかりである。そのため修正指示から対応完了までの期間も、全体スケジュールを考える際に検討しておかなければならない。

初校のCGの出来によって作業ボリュームと時間が変わってくるので、事前にどのくらいの期間を想定しておけばよいのか読みにくいところだ。初めから余裕のあるスケジュールが取れない場合は、初校・校了の時間も含めた上での納期を伝えておくのが重要である。

プロセスその4. 校了~CGパースの納品

修正対応~チェックを繰り返し、直すところがなくなったら納品となる。基本的にはこれ以降の修正は不可になるか、費用が発生してしまう場合があるので注意が必要だ。

データの種類

現在、CGパース画像は転送サービスやクラウドを利用して納品されるのが一般的である。データ形式としては、高画質かつ容量が小さい「.jpg」や「.png」が多く利用されている。

画質の劣化や圧縮を避けたい場合は、「.TIFF」などの形式での納品を依頼することも可能だ。また、出力用データや額装が必要な場合は、制作会社が対応可能か事前に確認しておくと安心である。

納品後に修正・変更が必要になったら

納品後に変更が発生することもある。データ納品から間もない場合や、軽微な変更であれば、追加費用なしで対応してもらえるケースが多い。

ただし、ボリュームのある変更や納品から時間が経過した場合は、内容に応じた追加費用が発生することが一般的である。また、変更の内容によっては対応が難しい場合もあるため、早めに制作会社へ相談することが重要だ。

理想の店舗内観CGパース制作するためのポイント

理想的な店舗CGパースを制作するためには、明確な方向性とゴールを共有し、効率的なプロセスを構築することが不可欠である。制作会社に正確な情報を提供し、イメージを具体的に共有することで、計画意図に合った高品質な成果物を得ることができる。ここでは、制作を成功に導くための3つの重要なポイントを解説する。

内装デザインの方向性とゴールを制作会社と共有する

具体的な要望を明確にする
依頼者が具体的な要望を制作会社に提供することで、制作プロセスはスムーズに進み、理想に近いCGパースが仕上がる。特に以下の点を整理し、伝えることが重要である。

期待する成果:
このパースで何を達成したいのかを明確に伝える。例えば、「顧客の関心を引きたい」「クライアントにプロジェクトの魅力を伝えたい」など、目的を具体的に示すことで、制作会社の対応がより的確になる。
パースの目的:
CGパースをどのように活用するのか、販売促進、プロジェクトのプレゼンテーション、デザイン確認など、最終的な用途を明確に伝えることで、適切な制作方法や演出が選ばれる。
重点を置く部分:
パース内で特に目立たせたい部分を明確に伝える。例えば、「外観全体を見せたい」「エントランス部分を際立たせたい」といった具体的な要望があると、アングル選定がスムーズに進む。
希望するスタイルや雰囲気:
モダンで洗練された印象、温かみのある雰囲気など、仕上がりのイメージを具体的に伝える。参考画像やデザイン例があれば、それを共有することでイメージのズレを最小限に抑えられる。

ゴールとなるイメージの共有

仕上がりのイメージを明確に共有することは、理想的なCGパースを制作するうえで欠かせない。参考画像やイメージサンプルを活用して具体的なビジュアルを示すことで、制作側との認識のズレを最小限に抑えることができる。また、過去の事例や他社プロジェクトの画像を参考にすることで、デザインの方向性をさらに明確にすることが可能だ。

理想のイメージ画像を探す際には、インスタグラムやピンタレストといった画像系SNSが便利である。さらに、生成AIを活用して独自のイメージを作成する方法も注目されている。AIツールの一例として「ミッドジャーニー」があり、簡単にイメージを具体化することができる。

ミッドジャーニーによる画像生成方法をこちらの記事で解説している。
>>>建築パース・CGパース制作のプロが検証!画像生成AIでイメージ通りの建築パースはできるのか?

指定家具や什器、設計図書の情報を正確に伝える。

高品質なCGパースを制作するには、必要な資料を準備し、正確な情報を制作会社に提供することが不可欠である。以下に、重要な情報とその提供方法をまとめた。

設計図面の提供:
制作に必要不可欠な平面図、立面図、断面図だけでなく、細部まで指定された詳細図や反映したい照明配灯図などイメージが伝わる図面を用意することが重要だ。

家具や小物などの情報:
内観パースでは家具や小物の反映が重要である。製品名や商品ページなどの情報を提供することで、制作者はその詳細情報を取得・制作対応が可能となるため、CGパースのリアリティが向上する。

これらの資料を用意し、正確な情報を制作会社に提供することで、CGパースの品質が大きく向上し、依頼者の意図がより具体的に反映された成果物が得られる。

スケジュールと納期を確認し、計画に余裕を持たせる。

CGパース制作では、修正作業やその対応時間を考慮したスケジュール管理が求められる。計画に余裕を持たせることで、突発的な問題にも柔軟に対応し、より高品質な成果物を実現することが可能になる。以下に、スケジュール管理のポイントを解説する。

修正期間の考慮:
画像全体の明るさ調整など簡単な修正を除き、多くの場合、修正作業には時間のかかるレンダリングが必要となる。その為、この修正期間の時間を考慮せずにスケジュールを組みがちなので注意が必要である。

大幅な変更の制限:
納品直前の大幅な変更は、スケジュールやコストに大きな影響を与えるだけでなく、品質にも悪影響を及ぼす可能性がある。そのため、必要な変更は早い段階で調整を開始し、最終的な仕上がりに影響が出ないよう心がけたい。

余裕を持った計画:
修正や変更を見越して余裕のある計画を立てることで、突発的な問題にも対応しやすい体制を整えることができる。特に重要なプレゼンや納期が決まっている場合には、確認や修正の時間を十分に確保することが理想的である。

店舗・商業施設CGパース制作についてよくある質問

商品をディスプレイした状態のCGパースは制作できますか?

はい、商品ディスプレイを反映した内観パースも制作可能です。商品配置のレイアウト図や写真などの資料をご用意いただければ、実際の店舗イメージに近い表現が可能です。ただし、商品の詳細な再現は難しい場合があるため、主に雰囲気を表現するものとお考えください。

昼間と夜間の2パターンで制作する場合、追加費用はどのくらいかかりますか?

昼間と夜間の2パターンを制作する場合、追加のレンダリングや調整作業が必要になるため、費用が増加する可能性があります。具体的な金額は制作内容によりますが、昼間制作費用の3~5割程度の追加料金となることが一般的です。詳細な見積もりは事前にご相談ください

修正回数に制限はありますか?

修正回数は制作会社によって異なりますが、一般的には2~3回の軽微な修正に制限を設けている場合があります。大幅な変更が必要な場合には、追加費用が発生する可能性があるため、事前にスケジュールや条件を確認しておくことをおすすめします。

指定する家具を配置したいのですが、どのように指示をしたらよいでしょうか。

既製品の場合、品番や製品画像、製品ページのURLなど、詳細が分かる情報をご提供いただくとスムーズに反映が可能です。(一部を除く)一方、造作家具の場合は、詳細図やスケッチなど具体的な資料をご用意ください。これらの情報があることで、家具の再現度が高まり、よりリアルなCGパースが制作可能となります。

CGパースに人物や背景を追加できますか?

はい、人物や背景を追加することで、よりリアリティのある表現が可能です。人物の追加は、写真素材を合成する方法と、3Dモデルを3DCGソフト内に配置してレンダリングする方法のいずれかになります。

まとめ

店舗・商業施設CGパース制作は、多くの工程を経て完成するが、それぞれのプロセスで重要なポイントを押さえることで、理想的な仕上がりを実現できる。

  • 制作前の準備段階では、正確な資料の提供と明確な方向性の共有が成功の鍵となる。
  • アングルの選定や修正の指示では、目的を明確にし、制作側と円滑なコミュニケーションを図ることが重要である。
  • 納品までのスケジュール管理には、修正期間や余裕を持った計画が求められる。

これらのポイントを押さえることで、制作会社との連携がスムーズになり、店舗の空間や商品の魅力を最大限に引き出したCGパースが完成する。

CGパースは、完成後のビジュアルイメージを伝えるだけでなく、プロジェクト全体の成功を後押しする重要なツールである。この記事を参考に、制作プロセスをしっかり管理し、理想的な店舗・商業施設のCGパースを実現してほしい。

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