プロジェクトを成功へと導く・効果的な建築プレゼンテーション構築法
「建築のプレゼンテーションをなんとなくやってるが、もっと良い方法はないのか・・・」といった悩みを抱いている人は少なくないはずだ。
なぜなら、建築計画のプレゼンテーション方法について、詳しく解説しているサイトや情報があまりにも少ない。
あったとしても、有名な建築家やインテリアデザイナーの事例ばかりで、真似しようとしてもなかなか難しいだろう。
この記事では、建築プレゼンテーションの本質や利用されるツールを解説し、それらを活用した「成功へ導く建築プレゼンテーションの構成方法」を紹介する。
プレゼンテーションの語源は「プレゼント」である。
聞き手となる相手に、常になにかを与えることを念頭に読み進め、実践して欲しい。
1. 建築プレゼンテーションの成功とは
建築プレゼンテーションの「成功」とは、そのプロジェクトを勝ち取ること。またはプロジェクトの進行を円滑に行うことである。
そのためにはまず
「限られた予算の中で希望を満たすものができるのか」
「設計は私たちの生活やニーズに合っているか」
「デザインは目を引くもので、周囲と差別化できるか」
などのクライアントが抱く悩みに対して解決案となる最適解を計画する必要がある。
自分の主張したい内容ばかりの計画案でなく、相手の視点に立ち、利益となるものを考え抜いた設計を用意することが大前提である。そしてそれをどのように伝えるのか。以降の章で詳しく解説していく。
2. 建築プレゼンテーションに必須なメインビジュアルとは
建築プレゼンテーションは限られた時間の中でクライアントに、わかりやすく簡潔に計画案の魅力を伝えなければらない。そのためには、全体像が直感的に把握できるメインビジュアル(視覚要素)が不可欠である。
なぜなら2次元の図面や言葉による説明だけでは、建築のプロでさえ計画の全体をイメージすることが難しいからだ。
建築のメインビジュアル制作には、手書きパース・建築模型・CGパースの3つが主に用いられる。
それぞれ異なる特徴と利用に適した場面があるので詳しく解説していく。
2-1. 手書きパース
手書きパースとは文字通り、建築家やデザイナー自身が手作業で描く透視図(パース)のことである。建築プレゼンテーションにおいて手書きパースを活用することは、詳細がまだ決まっていない計画の初期段階でとても有効である。
なぜなら手書きパースには
手書きならではのオリジナリティ
によってデザインに独特の特徴を与え、プレゼンテーションを際立たせることができるからである。
例えば公共施設の再開発プロジェクトにおいて、建物だけでなく人々の活動も描くことで、手書きパースが空間を生き生きと表し、施設の躍動感を表現することができる。プロジェクトのアイディアやビジョンを伝えるための強力なツールとして機能するのである。
プロジェクトに独特の特徴を持たせたい場合は、手書きパースを活用することがとても有効である。
2-1-1. 手書きパースを活用したプレゼンテーションの特徴は「手作業の温もり感」を演出できるところ
手書きパースを活用したプレゼンの特徴は、その独特な「手作業の温もり感」にある。
この「手作業の温もり感」は、デジタル画像にはない温かさと細やかな表現を反映し、プロジェクトに深みと個性を与えることができる。手書きの線一本一本が、デザイナーの情熱やプロジェクトへの想いを伝え、デザインの意図を親しみやすい方法で表現できる。
特に住宅プロジェクトにおいては、そこで生活する未来のライフスタイルや設計の意図を伝えることに優れている。それによってクライアントは、自分事として深い共感と関心を抱くようになる。
2-1-2. 手書きパースによるプレゼンテーションが効果的なプロジェクト
手書きパースが特に効果を発揮するのは、計画の初期段階で、「手作業の温もり感」とそのコンセプトが合致するプロジェクトである。その例を以下に紹介する。
・木のぬくもりや、やわらかさをコンセプトしているプロジェクト
主に住宅プロジェクトや木造施設の建築。手書きパースは素材の温もりや質感を伝え、建物の暖かさと心地よさを表現するのに適している。
・人々の活動や賑わいを表現したいプロジェクト
公共空間や商業施設など、人々の活動や社会的な交流を重視するプロジェクト。手書きパースは人々の動きやエネルギーを描き出し、プロジェクトの活気を示すのに役立つ。
・ライフスタイルや生活様式の提案を行うプロジェクト
個人の生活やコミュニティの様子を反映するプロジェクト。手書きパースは生活空間の使い方や雰囲気を具体的に示し、ライフスタイルの提案を視覚的にサポートする。
これらのプロジェクトにおいて、手書きパースはプロジェクトのビジョンやコンセプトを生き生きと伝え、プレゼンテーションを強化する重要なツールとなる。
2-1-3. 魅力的な手書きパースの例
2-2. 建築模型
建築模型とは、実際の建物を縮小して作られる模型のことで、コンセプトを立体的に表現するための重要なツールである。建築プレゼンテーションにおいて建築模型を活用することは、詳細が決まり始めた中期段階でとても有効である。
なぜなら建築模型は
全体形状が把握できる
ことによってリアルな体験と理解をもたらし、プロジェクトの具体的なイメージを提供できるからである。
例えばマンションの開発プロジェクトにおいては、完成予定の模型が展示され、購入予定者や投資家にマンションの全体像を直感的に理解させるのに役立つ。また、将来の住まいのイメージを形成しやすくなり、マンションの価値と魅力をより深く理解することできる。
このように建築模型は、プロジェクトのスケール感や空間を直感的に理解させることができ、プレゼンテーションにおけるコミュニケーションのクオリティを高める役割を担う。
2-2-1. 建築模型を活用したプレゼンテーションの特徴は「リアルな視覚体験」を演出できるところ
建築模型を用いたプレゼンテーションの魅力は、「リアルな視覚体験」を演出できるところにある。
プロジェクトを立体的に表現することで、関係者をデザインの世界へと深く引き込む力を持っている。この没入感は、クライアントやステークホルダーがプロジェクトをより深く理解し、積極的な参加を促すことができる。
住宅の設計では、模型によって家の全体像やレイアウトを伝え、理想の生活スタイルをイメージさせるのに役立つ。この体験は設計の理解と承認を大きく促進させることになる。
建築模型を用いたリアルな視覚体験は、クライアントや関係者とのコミュニケーションを活発化させ、設計の意図やプロジェクトの特性について、議論を深めることができる。
2-2-2. 建築模型によるプレゼンテーションが効果的なプロジェクトは
建築模型が特に効果を発揮するのは、計画の中期段階で「リアルな視覚体験」とその目的が合致するプロジェクトである。その例を以下に紹介する。
・住宅プロジェクト全般
住宅プロジェクトでは、建築模型を利用することで、外観デザインだけでなく室内空間の関係性・機能性を多角的に確認することが可能となる。これによりクライアントは、その空間での生活を具体的にイメージし、理解を深めることができる。
・集合住宅(マンション)プロジェクト
マンションプロジェクトでは、建築模型が敷地全体の計画や配置、周囲の景観との調和を詳細に示すことができる。これにより、購入者や投資家はマンションの全体像を明確に理解し、その魅力を具体的に把握することが可能となる。
・環境との共生を目的とした施設プロジェクト
自然との調和や環境に優しいデザインを目的とする施設開発プロジェクト。建築模型が周辺環境との関係を具体的に示し、プロジェクトの魅力や美学を表現することができる。
これらのプロジェクトにおいて、建築模型は、視覚的な具体性を提供し、プロジェクトに対する深い理解と共感を促進する重要なツールである。
2-2-3. 魅力的な建築模型の例
2-3. 建築CGパースを活用したプレゼンテーション
建築CGパースとは、コンピューターグラフィックスを用いて精巧に表現される完成予想図のことである。建築プレゼンテーションにおいてCGパースを活用することは、詳細が決まりだした計画の中期段階以降でとても有効である
なぜならCGパースには
デザインの細部まで描き出すことができる
ことでプロジェクトに関わるすべての人に共通のイメージを提供できるからだ。
プロジェクトのジャンルに関係なく、デザインの可能性や設計者のビジョンを明確に伝えることができる有効な手法である。そのためCGパースは、プレゼンテーションにおいてプロジェクトの魅力を効果的に伝え、関係者の関心を引き寄せる強力なツールである。
2-3-1. 建築CGパースを活用したプレゼンテーションの特徴は「圧倒的なリアリティ」を演出できるところ
建築CGパースを使用したプレゼンの特徴は、その「圧倒的なリアリティ」にある。
細部まで詳細に再現されたビジュアルによって、実際の建築物の雰囲気を捉えることができ、プロジェクトのビジョンをより具体的に理解することができるためである。
例えば、商業施設の再開発プロジェクトにおいてCGパースを使用する場合、施設の外観・空間デザインや人の流れまでリアルに視覚化することが可能。このリアルな表現によって、関係者にイメージを共有することが可能となる。
CGパースは、プレゼンテーションの質を向上させ、圧倒的なリアリティによって関係者の興味と関心を引き寄せる強力なツールである。
2-3-2. 建築CGパースによるプレゼンテーションが効果的なプロジェクトは
建築CGパースが特に効果を発揮するのは、「圧倒的なリアリティ」とその目的が合致するプロジェクトである。その例を以下に紹介する。
・前衛的なデザインプロジェクト
革新的なアイディアや抽象的なコンセプトを有するプロジェクト。建築CGパースはその複雑なデザインをリアルに表現し、プロジェクトの創造的なビジョンを明確に伝えるのに最適なツールである。
・大規模開発プロジェクト
この種のプロジェクトでは、広大なエリアを、住宅、商業施設、公共スペースなどによって開発が行われます。CGパースは、これらの広範囲な開発の全体像を視覚的に捉えるのに最適なツールである。
・複雑な構造を持つ公共施設プロジェクト
こうしたプロジェクトでは、建築的な複雑さや革新的なデザインが特徴。独特のフォルムを持つ美術館や、複雑な幾何学的デザインの図書館など。CGパースは、これらの複雑な構造やデザインの細部をリアルに表現し、プロジェクトの革新性や機能性を視覚的に伝えるのに適している。
これらのプロジェクトにおいて、建築CGパースはプロジェクトのビジョンをリアルに伝え、関係者の興味を引き寄せるための強力なツールである。
2-3-3. 魅力的な建築CGパースの例
2章では、建築プレゼンテーションに必須なメインビジュアルの特徴と事例を紹介した。
メインビジュアルの選択には、自身の計画案のコンセプトやプレゼンテーションのテーマに沿って決定しなければならない。
なぜなら、一貫した哲学によるプレゼンテーションは、計画の魅力と主張を簡潔に伝えることができるからである。
次の章ではこれらのメインビジュアルを活用し、プレゼンテーション全体をどのように構築、展開していくかに焦点を当て解説していく。
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3. 効果的な建築プレゼンテーションの構築方法
2章では建築プレゼンテーションにおいて重要な役割を果たすメインビジュアルについて解説した。
既に把握していた内容が多かった方もいると思うが、
実際にどのようにプレゼンテーションに活用し、展開していくかは悩ましいだろう。
プレゼンテーションにはひとつの正解があるわけでなく、ここで紹介する方法がすべて効果的であるとは限らない。
しかし、これから解説するアプローチは、一般的なものだが、プレゼンテーションの効果を高める有効な手段ばかりである。
3-1. 1番伝えたい大きな主張を決定する
最初に、プレゼンテーションの中心となる大きな主張を「1つ」決めることから始めよう。
あれもこれもと情報をつめすぎると、本当に伝えたいことが伝わらず、結局なにが言いたいのかわからなくなってしまう。結果としてプレゼンテーションの本質が理解されず、印象の薄いものになる。
プレゼンテーションでは、1つの強い主張をわかりやすく、シンプルに伝えることで、相手に深く強い印象を残すことができる。
まずは、聞き手にとって有益で大きな主張を決定し、それを軸にプレゼンテーションの構成を考えていく。
3-2. 計画案のコンセプトを整理する
建築のプレゼンテーションでは、デザインの背後にある理由や意図を説明することが求められる。
なぜこの形なのか、その形がもたらす機能や利便性はなにか。美しさだけでない論理的なアプローチにより、プレゼンテーションは説得力を高めることができる。
ひとつひとつ、自身の計画したデザインのポイントを整理し、簡潔に説明できるような準備をしよう。
3-3. プレゼンスタイルを設定する
プレゼンテーションには様々なスタイルがある。
・データを最大限活用して説得力を押し出す論理的なプレゼン
・自身の経験やエピソードを利用し、身振り手振り感情へ訴えかける情熱的なプレゼン
・強力な視覚要素を多用してメッセージを伝えていくビジュアル型なプレゼン
・コミュニケーションを中心に、対話や質問を取り入れた参加型プレゼン
プロジェクトのタイプや、自身の性格から、どのようなスタイルが適しているのか決定しよう。
3-4. 伝えたいテーマ、コンセプトやスタイルに沿ったメインビジュアルを選定する
プレゼンテーションのテーマやスタイルを決めていくと、伝えたい内容を表現するにはどんなビジュアルが必要か、どんなテイストの方法が最適なのかがわかってくる。
その視点を持ってメインビジュアルを決めていくことで、プレゼンテーションに一貫した哲学が生まれる。例えば、体験を重視したプレゼンテーションでは、家具や素材まで反映された建築模型を用意し、手に取ってその空間を疑似体験してもらうことが非常に効果的だ。
このように適切なメインビジュアルの選定は、
視覚的な魅力を与えるものだけでなく、プレゼンテーションの根底にあるメッセージを届けるための重要な方法である。
3-5. プレゼンの全体構成を組み立てる
次にプレゼンテーションでよく利用される構成方法3種類を紹介する。
ここまでの工程で出来た、プレゼンテーションの骨格を落とし込んで構築していこう。
3-5-1. 最もオーソドックスな 序論→本論→結論
最も一般的なプレゼンの構成。
本論で計画のコンセプト・伝えたいことを説明
結論でまとめを行い、テーマをもう一度振り返る
この三段構成は基本中の基本で、わかりやすい文章を書く場合にもよく用いられる手法である。
3-5-2. 相手の興味・関心を惹くストーリーテリング
建築プレゼンテーションの準備において、単にビジュアル要素を用意し、ポイントを整理するだけでは不十分である。プレゼンテーションが関係者の心に響き、記憶に残るためには、それら事実の提示を超えたアプローチが必要だからである。
そこで重要となるのがストーリーテリングである。
ストーリーテリングは、プロジェクトの背景やコンセプト、建築物がもたらす影響や価値を物語形式で伝える技法だ。
人間味のあるストーリーは時に感情を大きく揺さぶり、論理的な文章を並べるよりも何倍も人を惹きつけることができる。
スタンフォード大学でマーケティング学教授のJennifer Aakerの研究によると、事実や数字を並べるよりもストーリーがあることで最大22倍も人の記憶に残りやすいことがわかっている。
実際にあなたが経験したことや感じたことをもとに、ストーリを構成しプレゼンテーションに臨めば、期待する結果を得られる可能性が高まるだろう。
3-5-3. 説得力のあるPREP法
PREP法は、ロジカルなライティングやスピーチにおいて効果的な技法で、伝えたい情報を相手にわかりやすく伝える際に多く用いられる。
この方法は、以下の構成で文章を作成する
:ポイント(結論)、理由、例(具体例/証明)、再度のポイント(再結論)
たとえば、高品質なコーヒー豆を紹介するセールス文にPREP法を適用する場合、以下のようになる。
理由:なぜなら、特別な栽培方法で育てられ、厳しい品質管理の下で選別されるからである。
例:このコーヒー豆を栽培する農園は、南米の高地に位置しており、理想的な気候と土壌がコーヒー豆の豊かな風味を引き出す。農園主は20年以上の経験を持ち、収穫された豆は一つ一つ手作業で選別さる。この手間ひまかけたプロセスは、コーヒーの品質を決定づける重要な要素である。
再度のポイント:この高品質なコーヒー豆を使えば、あなたのコーヒータイムが特別なものになること間違いない。
このように、PREP法を使用することで、セールス文の説得力が高まり、より多くの反響を得ることができるのである。
3-6. 説明は視覚要素(ビジュアル)→言葉の順に行う
プレゼンテーションにおいて、伝えたいメッセージはまず視覚要素から提示し、その後に言葉で補足することが効果的である。
なぜなら、ビジュアルは直感的に理解されやすく、聞き手の注目を集め、強い印象を与える。その後、言葉による説明を加えることで、視覚的に引き付けられた関心を深い「理解」に変えることができるからだ。
建築のプレゼンテーションでは、プロジェクトのパースや模型を最初に提示してクライアントの関心を喚起し、その後で設計の意図や詳細な情報を語る。それにより、深い洞察とプロジェクトの理解を提供できる。
3-7. プレゼンテーションの準備と練習の重要性
建築プレゼンテーションの成功には、入念な準備と実際の状況を想定した練習が欠かせない。自信を持って効果的なプレゼンテーションを行い、聞き手に深い印象を与えるために不可欠だからだ。
多くの方には、準備なしでプレゼンテーションに臨み、期待した結果を得られないという経験があるのではないだろうか。実際のプレゼンテーション環境を再現し、プレゼンテーションの流れやタイミングに慣れるまで反復練習を行うことが、このような失敗を避ける最善で唯一の方法である。
プレゼンテーションへの入念な準備と練習は、不測の事態や質問にも柔軟に対応でき、より自然で説得力のある振る舞いが可能となる。聞き手へ、簡潔なプレゼンテーションを届けるためにも、多くの時間を割いて準備をしよう。
4. まとめ
この記事を通じて、効果的な建築プレゼンテーションの準備と構築方法が理解できただろう。
プレゼンテーションの成功は、プロジェクトを勝ち取り、円滑に進行させることである。そのためにはクライアントの不安や悩みに対する解決案を、簡潔かつ魅力的に提示することが必要だ。
そしてわかりやすく・魅力的に伝えることが求められ、そのためには、計画がひとめで把握できるメインビジュアルが欠かせない。
建築計画におけるビジュアルツールとして用いられる
・手書きパース
・建築模型
・CGパース
について紹介し、それらを活用したプレゼンテーションの構築方法として
・1番伝えたい大きな主張を決定
・計画案のコンセプトを整理
・プレゼンスタイルを設定
・テーマ、コンセプトに沿ったメインビジュアルを選定
・全体構成組み立て
・準備と練習の重要性
について言及している。
このようなひとつひとつの選択を一貫した哲学に基づいて行うことが、プレゼンテーションのわかりやすさと信頼性を高め、プロジェクトの成功へ大きく貢献することだろう。