建築パース・CGパースにおける人物表現:写真合成/3D人物/3D+AIの特徴を解説

建築パースやCGパースにおいて、人物表現は空間の活気や用途を伝えるうえで欠かせない要素である。住宅であれば暮らしの気配を、商業施設であれば賑わいや流れを、オフィスであれば働く環境の雰囲気を視覚的に補強する役割を果たす。人物がいるかいないか、それだけでも完成パースの印象は大きく変わる。

現在の建築パース・CGパース制作では、写真素材を合成した人物表現が主流となっている。3D人物を活用する事例も一部で見られるが、制作コストやデータ整合性の面から、あくまで限定的な活用にとどまっているのが実情だ。人物表現の種類や選択理由が明確に語られることは少なく、選択肢として意識されることも多くはない。

本記事では、写真合成・3D人物・そして3D+AIという3つの手法を中心に、それぞれの人物表現が持つ特徴と表現上の違いを整理する。そのうえで、私たちが実制作で導入している3D+AIによる人物表現についても触れ、既存手法にはない独自のクオリティと柔軟性を実現している技術的な取り組みを紹介する。

目次

1. 建築パース・CGパースにおける人物表現の役割とは

建築パースやCGパースは、建物や空間の構成・スケール・マテリアルなどを視覚化する手段として広く使われている。しかし、完成した空間の用途や雰囲気までを伝えるには、建物そのものだけでは情報が足りない場合もある。
そこで重要になるのが人物表現である。人物を加えることで、空間が「人のいる場」として機能し始め、用途や過ごし方を具体的に想像させることができるからだ。

人物が果たす主な役割
人物を配置することで、パースに次のような効果が生まれる:

視線の誘導・動線の提示
 人物の配置により、見る人の視線を自然に導いたり、動きの流れを示すことができる
スケール感の明示
 人物のサイズを基準に、空間の広さや高さが把握しやすくなる
使用シーンの補完
 その場にいる人物の行動や服装から、空間の使われ方や時間帯をイメージできる
雰囲気の演出
 活気・静けさ・親しみやすさなど、空間の空気感を補強できる

このように人物は、空間にスケールや雰囲気、使われ方の具体性を加えることで、建築パースにより豊かな情報を与える視覚的要素として機能している。

2. 建築パース・CGパースにおける人物表現の種類

建築パースにおける人物表現にはいくつかの手法がある。
本章では、実際の制作現場で使われている代表的な表現を取り上げ、それぞれの特徴と見え方の違いを整理していく。

2-1. 人物なし

人物を配置しないパースは、空間そのものを伝えたいときに選ばれる表現の一つだ。設計段階やコンセプト提示の場面など、使用者や使用状況を限定せずに建築自体を見せたいケースでは、このような人物なしの表現が適している。

たとえば、空間構成・マテリアル・光の入り方など、設計上の要素に集中させたいとき、人物が加わることで視線が分散するのを避けるために、あえて人物を入れないという判断がされることがある。特定の雰囲気や用途を押し出さないぶん、静的で抽象的な印象を与えることができるのも特徴だ。

人物を入れないことによるメリット

🔷 シンプルでコンセプチュアルな印象を演出できる
 静的で抽象的な空間として見せることで、純粋なデザインの魅力を引き出せる。
🔷 空間の構成やディテールに集中させやすい
 人物がいないことで視線が分散せず、設計意図を明確に伝えられる
🔷 用途やシーンを限定せず、自由な解釈が可能になる
 誰がどう使うかを想定させないため、さまざまな使い方を想像できる

一方で考慮すべき点

提案相手によっては情報が不足して見える場合がある
 とくに建築に詳しくない相手にとっては、人物がいないことで説明不足に感じられる可能性がある。
スケール感が把握しにくくなる
 空間の広さや高さを直感的に伝えるのが難しくなる。
空間の使われ方や雰囲気が想像しづらくなる
 暮らしやすさやにぎわいといった要素が伝わりにくくなる。

人物を配置しないパースは、建築そのものに目を向けてもらうための方法のひとつとして、有効に機能する。見る人に何を伝えたいかによって、選ぶべき表現は変わってくる。

2-2. 写真合成における人物表現

写真合成による人物表現は、建築パースの制作現場で最も広く使われている手法のひとつだ。人物専用のカットアウト素材などをパースに合成することで、人の存在を簡単に加えることができる。

多くの場合、Photoshopなどの画像編集ソフトを使って、レンダリング後のCGパース画像に人物をレタッチで追加していく。素材の数や種類が豊富で、歩いている人・座っている人・談笑している人など、シーンに応じた演出が比較的容易に行える。

写真合成による人物表現のメリット

🔷 狙った雰囲気を直感的に演出しやすい
 人物の姿勢・動き・服装を比較的自由に選べるため、空間の用途や時間帯を表現しやすい
🔷 制作コストと時間を抑えやすい
 レンダリング後の画像に合成するため、3Dデータで人物を配置する手間がない
🔷 素材が豊富で、表現の幅が広い
 ストックフォトやカットアウト素材を活用すれば、多様なシーンに対応できる

一方で考慮すべき点

良質な日本人素材が少ない
 ストックサイトでは海外の人物が中心で、日本人らしい自然な動きや雰囲気をもつ素材は限られている
建物と人物のパースが合わないことがある
 視点や光の方向にずれがあると、人物だけが浮いて見える原因になる
立体感や奥行きの表現に限界がある
 2D素材であるため、空間との調和を表現するには高いスキルと経験が必要となる

写真合成は、簡単でありながら幅広い演出ができるという点で、実用性の高い手法といえる。ただし、その手軽さゆえに雑に見えることもあるため、仕上げには一定の調整や配慮が求められる。

国内では、人物を加えつつも空間の意匠を損なわないように、人物を透過させて配置する表現が使われることがある。とくに写真合成では人物の存在感を薄めることで、視線を建築に集中させる意図が込められている。この方法は、スケール感や生活の気配を軽く添えるような使い方に適しており、人物素材そのものの質感やリアリティはそれほど重視されない傾向にある。結果として、さまざまな素材が柔軟に使われているのが実情だ。

人物の印象を抑えたいが、完全に省くのも避けたいという場面では、有効な選択肢となる。

人物の写真素材と合成方法についての記事はこちら

ChatGPTの画像生成を利用して、日本人のカットアウト素材を生成する方法についてはこちら

2-3. 3Dデータにおける人物表現

3Dデータによる人物表現は、あらかじめポーズがつけられた3D人物モデルを、空間内に直接配置する方法だ。人物も含めてシーン全体を3Dで構築し、レンダリングすることで、ライティングや影などの整合性が取りやすくなる。

写真合成に比べて人物が空間になじみやすく立体的な表現が可能になるため、特殊なアングルのシーン(鳥瞰など)にも対応しやすい。

3D人物表現のメリット

🔷 構図の自由度が高い
 ローアングルや鳥瞰など、視点を限定しないシーンでも人物を無理なく配置できる
🔷 空間との整合性が高い
 ライティングや視点が一致するため、違和感のない人物描写が可能になる
🔷 立体的な描写ができる
 どの角度から見ても人物の奥行きが自然に表現され、空間の中に「存在している」印象を与えられる

一方で考慮すべき点

作り物感が出やすい
 3Dモデル特有の質感や表情が原因で、リアルな人物としての自然さに欠けることがある。
日本人の素材が少ない
 市販されている3D人物モデルの多くは海外人物が中心で、日本人らしい外見や自然な雰囲気を持つデータは非常に限られている。
高品質なモデルはコストがかかる
 リアルな質感を持つ3D人物は有料モデルが中心で、コスト面での増加が生じることもある。

3D人物は、空間と一体化した表現ができるという点で優れた手法だが、人物自体のクオリティやバリエーションにはまだ課題が残っている。

2-4. 3D+AIにおける人物表現

3D+AIによる人物表現は、3D人物の立体的な整合性と、写真合成のリアリティを両立させる新しいアプローチである。
ベースとなる人物は3Dで配置し、照明やカメラ位置との整合を確保したうえで、最終的にAI処理を加えることで、質感や存在感を高めている。

この手法では、空間の奥行きや光の当たり方といった建築パースとしての整合性を維持しつつ、写真のような人物表現に近づけることができる。そのため、これまで3Dモデルに見られがちだった「作り物感」を抑え、より自然な人物描写が可能になる。

3D+AI人物表現のメリット

🔷 立体感とリアリティを両立できる
 3D空間への整合性を保ちながら、写真のような自然な質感を再現できる。
🔷 複雑な構図にも対応しやすい
 ローアングルや斜め構図などでも、人物が不自然になりにくい。
🔷 空間と人物の一体感が高まる
 背景との調和が良く、人物だけが浮いて見えるような違和感を抑えられる。

一方で考慮すべき点

制作コストと手間がかかる
 工程が増え利用するAI技術の種類によって、制作時間や処理負荷は他の手法よりも高くなる。
不自然さが残るケースもある
 AI処理によって質感が変化しすぎたり、意図しない表情が強調されたりすることがある。
技術的な習熟が必要になる
 高精度な結果を安定して得るには、手法への理解と調整力が求められる。

この手法は、3D人物の限界を補いながら、より高品質な人物表現を追求する際に有効な選択肢となる。
私たちも実制作においてこの手法を取り入れており、従来の表現では得られなかった空気感や一体感を実現している。

AI技術による調整時、ひと手間加えればアジア人へと容姿を変更することが可能
最新のAI技術を用いることで、3Dモデルを自然な表現へと変換することが可能だ

またこの手法では、もともと欧米系の顔立ちや体型を持つ3D人物であっても、AI処理を加えることで、アジア系、とくに日本人に近い印象へと変換することが可能となる。既存の3D素材に依存しながらも、表現の自由度を大きく広げることができるのは、AI技術を活用したこの手法ならではの強みといえる。

3. シーン別の使い分けまとめ

どの人物表現が適しているかは、案件の内容や目的によって変わってくる。
人物を入れることで何を伝えたいのか、どこまでのリアリティや演出を求めるのかによって、選ぶ手法も変わってくる。

空間の構成や意図を純粋に見せたい場合
建築そのものをしっかり伝えたいときは、人物を入れない表現が向いている。
人物がいないことで、視線が建物に集中しやすくなり、構成や素材、光の演出といった設計の意図がクリアに伝わる。

特に以下のような場面で使われることが多い:
◆ コンセプト提案や設計初期のプレゼン
◆ 建物の外観や空間構成を重視したいケース
◆ 「誰が使うか」を限定せず、建築そのものを見せたいプロジェクト


見た目はシンプルでも、建築を主役として見せたいときには有効な選択肢になる。

賑わいや生活感を伝えたい場合
空間に人の気配を加えることで、暮らしの雰囲気や使われ方を伝えたいときは、写真合成による人物表現がよく使われている。歩いている人、座っている人、家族連れなど、素材を選ぶことでシーンに合わせた演出がしやすい。

特に以下のような場面で使われることが多い:
◆ 住宅パースで生活感を出したいとき
◆ 商業施設やオフィスの賑わいを演出したいとき
◆ クライアントに具体的な使用イメージを伝えたい案件


手軽に情報量を増やせる一方で、人物と建物の調和やクオリティには注意が必要になる。ただし、見せたい空間の使われ方がはっきりしている場合には、非常に効果的な表現となる。

構図やカメラアングルが複雑な場合
ローアングルや鳥瞰、広角構図など視点が特徴的なパースでは、人物と空間の整合性を保つのが難しくなることがある。そういった場面では、3D人物を使うことで立体感や接地感を自然に表現でき、違和感のない仕上がりにつながりやすい。

特に以下のような場面で使われることが多い:
◆ 鳥瞰アングルや広角レンズを使ったパース
◆ 吹き抜けや階段、バルコニーなど、視点差のある場所に人物を配置したい場合
◆ 光や影の関係を丁寧に見せたい案件


3D人物は空間内に直接配置されるため、カメラや光の条件と一致しやすく、シーン全体に一体感を持たせることができる。

自然さと整合性の両方を重視したい場合
空間との調和だけでなく人物の見た目にもリアルさを求めたいときは、3D+AIによる表現が選択される。立体的な整合性を保ちつつ、AIによって質感や印象を自然に整えることで、写真に近い人物描写を実現できる。

特に以下のような場面で使われることが多い:
◆ 建築と人物の一体感を重視したいプレゼン資料
◆ 見た目の違和感を極力避けたいビジュアル提案
◆ 限られた3D素材から日本人らしい人物を表現したい場合


リアリティと整合性のバランスを取りたい案件において、柔軟性の高い選択肢となる。

4. 建築パース・CGパースにおける人物表現のよくある質問

人物表現の有無で、制作費や納期は変わりますか?

はい、変わることがあります。
写真合成の場合は比較的手軽に対応できるため費用や納期への影響は少ないですが、3D人物や3D+AIを用いる場合は調整作業やレンダリング負荷が増えるため、多少のコスト増や納期延長が発生することもあります。

写真合成だと違和感が出ることはありませんか?

素材の選定やレタッチ(合成処理)の精度によっては、違和感が出ることがあります。
たとえば視点や光の方向がずれていると、人物だけが浮いて見えてしまう場合があります。
そうした点も考慮しながら、人物の位置・大きさ・色調などを調整することで、自然な仕上がりに近づけることが可能です。

日本人の人物を使いたいのですが、対応できますか?

はい、対応可能です。
ただし、写真素材・3Dモデルともに海外の人物が中心で、日本人らしい印象を持つ素材は限られています。
希望の年齢層や雰囲気をヒアリングしたうえで、最も近い素材を選定するか、3D+AI技術を活用して日本人風に調整することも可能です。

人物の服装や年齢層など、細かい指定はできますか?

ある程度の指定は可能です。
写真合成の場合は、手持ちの素材や市販のストック素材の中から近いものを選定します。3D人物の場合も、服装やポーズのバリエーションには限りがありますが、条件に合うものを探して対応することができます。

どの人物表現を選べばいいか分からない場合はどうすればいいですか?

まずは「どんな印象を与えたいか」や「何を見せたいか」をお知らせください。
空間デザインを主役にしたいのか、生活感や賑わいを見せたいのかなど、目的によって適した人物表現は異なります。
判断に迷う場合は、制作側が提案いたしますので、まずは完成イメージの方向性を共有していただければ問題ありません。

5. まとめ

建築パース・CGパースにおける人物表現には、人物なし・写真合成・3D人物・3D+AIといった複数の手法がある。それぞれに特徴があり、空間の見せ方や伝えたい内容によって適した手法は異なる。

人物を入れないことで空間構成を明確に伝えたり、写真合成で生活感を演出したり、3D人物で一体感を出したりと、用途によって選択肢はさまざまだ。制作コストや納期、求めるリアリティの度合いなども含めて、表現方法をどう選ぶかは非常に重要な判断となる。

そのなかでも、3D+AIによる人物表現は、リアルな印象と建築との整合性を両立できる点で優れており、従来の課題を補いながら新たな可能性を広げている。
とくに、日本人の人物素材が限られるなかで、AI処理によってアジア系の印象へ自然に変換できる点は、これまでにない柔軟な対応力といえる。

私たちはこの3D+AIという手法を、実制作において積極的に導入している。単なる人物の「追加」ではなく、空間全体との関係性までを見据えた表現によって、より完成度の高い建築パースを提供している。人物の表現に悩んだときは、ぜひご相談いただきたい。空間に最適な見せ方をご提案することが可能である。

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