被写界深度(DOF)とは?建築パース・CGパース制作での利用法を解説

3DCGや建築パース制作において、表現を豊かにする手法として「被写界深度(DOF)」というものがある。被写界深度は、シーンの中で特定の要素を強調し、視覚的なインパクトを与えることで、作品に奥行きや求心性を生み出すことができるものだ。

たとえば、建物のデザインやディテールに焦点を当てながら背景をぼかすことで、見る人の視線を誘導してシーンの重要な部分に注意を集めることができる。

多くのシーンに必要ではないが、適切に活用することで視覚的なインパクトを与えたり、強調したい要素を際立たせたりすることができる。シーンに奥行きや魅力を加えるための重要な技術である。

この記事では、被写界深度の基礎から具体的な設定方法、さらにポストプロダクションでの作成手法までを解説する。

目次

1. 被写界深度(DOF)とは?

【画像 モデルノ: https://www.moderno-pers.com/

被写界深度(DOF)は、カメラや3DCGにおけるシーンで、焦点が合っている範囲を示す言葉である。
この範囲内では、オブジェクトが鮮明に描かれ、それ以外の部分は徐々にぼやけるのが特徴だ。この技術を使うことで、シーンに立体感や奥行きを持たせることができる。

また、シーン内の構成要素を整理し、視覚的なバランスを取る際に用いられることが多い。
背景をぼかし、特定の被写体を強調することで、シーンにメリハリを加え、見る人に明確な印象を与えることができる。特に、複雑な構図や多くの要素が含まれるシーンでは、被写界深度を使うことで重要な要素に視線を集めやすくなるため、視線を誘導することが可能になる。

2. 被写界深度(DOF)の要素とその違い

被写界深度がどのように変化するのかを理解するには、いくつかの要素が影響を与えることを知っておく必要がある。次に、それらの要素と、それによって生じる違いについて見ていこう。

2-1. 被写界深度の「浅い」と「深い」の違い

被写界深度には「浅い」と「深い」の2つの状態がある。

「浅い」の例 : 焦点が中央の黄金ブリキに合っており、情報が限られる状態

浅い被写界深度は、焦点が合っている部分が非常に限られており、背景や前景が大きくぼけるのが特徴だ。この効果は、被写体を際立たせ、観る人の視線を自然にその部分に誘導するために用いられる。特に、建築パースにおいて重要なディテールを強調したいときや、シーンの中で特定のオブジェクトに注目させたい場合に効果的だ。

「深い」の例 : 全体的に焦点が合っており、描写されるすべての情報が把握できる状態

一方、深い被写界深度は、焦点が合っている範囲が広く、シーン全体が鮮明に描写される。この状態では、空間全体を見渡せるような広がりのある印象を与えられるため、建物全体や広い室内空間をリアルに描写したい場合に適している。シーン全体に焦点が当たるため、情報量が多いが、特定の要素を際立たせるには「浅い」に比べると不向きである。

2-2. レンズの焦点距離による変化

被写界深度は、レンズの焦点距離によって大きく変化する。

焦点距離を45mmで設定した例

焦点距離が長い場合は被写界深度は浅くなり、焦点が合っている部分以外が大きくぼける。特定の被写体を強調し、背景や前景をぼかして視覚的な集中を高めることができる。例えば、建築パースで重要なディテールを際立たせたい場合、焦点距離の長いレンズを使うことで、建物の一部分だけをくっきりと描写し、その他の部分をぼかすことができる。

焦点距離を30mmで設定した例 : 45mmの場合に比べ、黄金部隊がより把握しやすくなる

焦点距離が短い場合は、被写界深度は深くなり、シーン全体が鮮明に描写される傾向となる。広い範囲に焦点が合うため、シーンの奥行きや全体感を強調したいときに適している。建築パースにおいて、広い空間や建物全体をクリアに見せたい場合には、短い焦点距離のレンズを使用することで、シーン全体に焦点を合わせ、空間の広がりや構造の全貌を効果的に伝えることができる。

レンズの焦点距離によって、シーンの見え方や雰囲気は大きく変わるため、どのような表現を目指すかに応じて、適切な焦点距離を選択することが重要である。

2-3. 撮影距離による変化

被写界深度は、被写体とカメラの距離、つまり撮影距離によっても変化する。被写体に近づけば近づくほど、被写界深度は浅くなり、焦点が合っている範囲が狭くなる。近距離で撮影する場合、被写体のみが鮮明に描写され、背景や前景は大きくぼける。たとえば、建築パースで近接してディテールを強調したいときは、カメラを被写体に近づけることで、浅い被写界深度を使ってその部分だけを際立たせることができる。

カメラと両脇に配置された銀ブリキの距離が近いため、被写界深度が浅くなりボケが発生する

一方で、カメラを被写体から遠ざけると、被写界深度が深くなり、広い範囲に焦点が合うようになる。広い空間や風景を鮮明に見せる場合には、カメラを遠くに配置することで、すべての要素を詳細に表現できる。

撮影距離が被写界深度に大きく影響するため、どの部分を強調するか、どの程度の奥行きを持たせるかを考慮しながら、カメラの距離を調整することが重要だ。

3. 被写界深度(DOF)の効果

被写界深度を活用すると、見る人の視線を特定の場所に誘導したり、感情的なインパクトを与えることが可能である。被写界深度がどのような効果を持つか詳しく見ていこう。

3-1. 視線の誘導

被写界深度は、シーン内での視線の流れをコントロールするために役立つ技術である。
特に、複複雑な構図のシーンで浅い被写界深度を用いることで、不要な情報をぼかし、視線が自然と意図したポイントに向かわすことができる。注目すべき要素が明確になることで、シーン全体の印象が整理され、より引き締まった表現が可能だ。

両脇の銀ブリキに焦点を合わせることで、視点をコントロールしている

3-2. ストーリーテリング

被写界深度は、ストーリーテリングにおいて、シーンに奥行きと物語性を与えるための強力な手段だ。適切に活用すれば、シーンの焦点を明確にし、見る人に伝えたいメッセージを強調できるのである。

画像の例では、20~30体の黄金ブリキ部隊が、2体の銀ブリキと対峙している様子が描写されている。深い被写界深度が用いられているため、全体の構成がはっきりと見え、戦いの状況や勢力図が一目で把握できる。すべてのオブジェクトが鮮明に描かれることで、状況全体のリアリズムが強調され、シーンの迫力が増している。

一方で、浅い被写界深度を使用したもう1枚の画像では、数体の黄金ブリキ隊が銀色の何者かと対峙する様子が描写されている。背景がぼやけることで、具体的なディテールが省略され、視線が手前のオブジェクトに自然と集中する。
抽象的な雰囲気が強調され、視覚的な焦点が絞られることで、シーン独特の緊張感が加わっている。このような効果は、物語の中で特定の場面や感情を強調する際に有効だ。

このように、被写界深度はシーンに立体感を加えたり、見る人の感情を引き込むことができる。異なる焦点を設定することで、伝えられる情報や表現が大きく変わりので、視覚的な演出が多様なものになる。

4. 3DCGソフトでの被写界深度(DOF)の設定方法

実際に3dsMax+ChaosCoronaを利用して、被写界深度の発生方法を解説していく。

今回は、上画像のシーンにて被写界深度を発生させたパターンの制作方法を紹介する。

浅い被写界深度を採用するカットでは、縦長構図+焦点距離45mm~に設定するとよい結果が得られやすい

まずは、シーンにカメラを設置して、構図を決定する。焦点距離は45mmに設定し、より人の視覚に近いものを採用している。また、テーブル中央にあるブーケに焦点を合わせることを想定しているので、画面手前にもボケが発生するオブジェクトが見えるように意識している。(チェアのアーム部やテーブルセットにボケが生まれることで、被写界深度が強調されるため)

  • カメラのモディファイヤリストにある「Depth of Field」にあるEnable・Override focusにチェックを入れる。Value は、カメラから焦点を合わせる地点の距離を指定する方法。Objectは、3Dモデルを選択して、それに焦点を合わせる方法である。適宜、使い分けよう。
  • 次に、「Photograhic parameters」にあるF-stopの値を指定する。デフォルトでは「16」となっており、オブジェクトがカメラに極端に近くない限り、ボケは発生しない。

F-stopの値を小さくすればするほど、被写界深度は浅くなり、焦点にあっている範囲以外のボケ具合が大きくなる。表現したい内容によってF-stopの値を選択しよう。このシーンでは、バランスの取れたF-stop「4」を採用している。

5. Photoshopで被写界深度(DOF)を作成する方法(深度ぼかし)

Photoshopを用いて被写界深度を表現する場合は、AI機能の「深度ぼかし」を利用すると簡単に効果を追加できる。前章で使用したCGパースをもとに解説していく。

ニューラフフィルターの深度ぼかしを利用するには、Photoshop2022 v23以降が必要である。

加工する画像をPhotoshopで読み込んだ後に、フィルタ>ニュートラルフィルターを選択するといくつかのフィルターが表示されるので、「深度ぼかし」を選択する。

  • 深度ぼかしを有効にする
  • 焦点を設定する
    ウィンドウ上の任意の点をクリックすることで、焦点を合わせるポイントを指定できる。焦点距離パラメーターによる数値設定でも可能。
  • 効果のパラメーター調整
    焦点範囲・ぼかしの強さの数値(設定項目はまだあるが、この2点の調整で十分)を調整する
  • 効果の確認
    左のウィンドウに結果が表示されるので、確認しながら調整を行う。

この手法はAI技術によるものなので、ピンとを合わせた箇所とボケの境界上で、不自然な結果となることがある。ぼかしの強度を弱めれば気にならない程度ではある。

6. 被写界深度(DOF)についてのよくある質問

被写界深度が浅い方がいい場面はどんな場合ですか?

浅い被写界深度は、特定の被写体に焦点を当て、背景や前景をぼかしたい場合に有効です。建築パースでは、デザインの一部や重要なディテールを強調するために使われます。

被写界深度が深い方がいい場面はどんな場合ですか?

深い被写界深度は、シーン全体をシャープに描写したい場合に適しています。広い空間や風景を見せたいときに効果的です。

被写界深度を設定するとレンダリングにどのくらい影響がありますか?

被写界深度を使うと、ぼかし効果をレンダリングするために処理時間が増加します。

被写界深度を使わない方がいい場合はありますか?

シーン全体をシャープに見せたい場合や、すべての要素をクリアに見せる必要がある場面では、被写界深度を使わない方が適していることがあります。

被写界深度を効果的に使うためのヒントはありますか?

被写界深度を設定する前に、どの部分に視線を集めたいかを明確にし、その上で焦点距離、カメラ位置を調整することがポイントです。目的に応じた設定が効果を最大限に引き出します。

7.まとめ

被写界深度(DOF)は、建築パースやCGパース制作において、視覚的な魅力とリアリズムを高めるための重要な技術である。浅い被写界深度を使ってシーンの焦点をコントロールしたり、深い被写界深度で空間の広がりを表現することで、視覚的に効果的なストーリーテリングが可能になる。被写界深度は、シーンの主題や意図を強調し、見る人に強い印象を与える手段として活用される。

記事では、被写界深度の基本的な仕組みやその効果に加え、3dsMaxでの具体的な設定方法や、Photoshopを使った被写界深度の追加方法についても解説している。これらの技術を正しく理解し、適切に使い分けることで、シーン全体の雰囲気や焦点を自在にコントロールできるようになる。

ただし、3DCGで被写界深度を設定するとレンダリング時間が長くなることがある。そのため、Photoshopを使った被写界深度の効果追加は有効な手段だ。しかし、Photoshopでの手法も完璧ではなく、精度が落ちる場合もあるため、適切な場面で利用することが重要である。建築パースやCGパース制作において、被写界深度は単なる技術を超え、視覚的なメッセージを伝えるための重要なツールである。

  • URLをコピーしました!
目次